スウェーデンというと、美しい自然に囲まれ、社会福祉が充実していて、ゆったりと余裕をもって子育てができる、というイメージをされている方が多いと思います。
私がスウェーデンの教育に興味を持ったのは、国が率先して国民のために生涯を通した学びの場を提供することを目標に掲げ、学費の無償化に着手するのが早かったこと、児童手当がかなり長い期間支給されることなどを、書籍などを通して知ったからです。
スウェーデン教育の魅力に触れたことで、実際の教育事情がどのようであるか、さらに深く掘り下げてみたくなりました。
そこで、今回はスウェーデンでどのような教育が行われていて、どのような特徴があるかを、書籍や現地に住む方々の口コミや聞き込み等をもとに詳しくまとめてみました。
まずは、スウェーデンの教育制度の概要から見ていきましょう。
スウェーデンの教育制度の概要
項目 | 内容 |
---|---|
学校制度 | 3・3・3・3・3 (4) 制 |
義務教育 | 7歳~15歳までの9年間 |
学校年度 | 8月中旬~翌年6月上旬 |
学期制 | 2学期制 |
学費 | 公立と私立:小学校~大学まで授業料が無料 |
学校制度
スウェーデンの学校制度は、3・3・3・3・3 (4) 制です。
具体的には下記のようになります。
学校 | 年齢 |
---|---|
フォルスコーラン (保育園や幼稚園) | 1歳~6歳 |
フォルスコーレクラス (就学前準備学級) | 6歳~7歳 |
グルンドスコーラン (小中一貫校) | 7歳~15歳 |
ジムナシエスコーラン (高校) | 16歳~18歳 |
ユニバーシティヤ (大学) | 19歳~22歳 |
まず、日本の保育園と幼稚園が一体化されたフォルスコーランに1歳~6歳まで通います。
その次に、就学前の準備学級であるフォルスコーレクラスに6歳~7歳(小学校入学前)まで通います。
その後、義務教育期間である小中一貫校で7歳~15歳の9年間を過ごします。
義務教育が終わったら、日本の高校にあたるジムナシエスコーランで16歳~18歳の3年間学びます。
高校を卒業したら、大学または博士課程のない高等教育期間であるホグスコーランに進学します。
日本は6(小学校)・3(中学校)・3(高校)・4(大学)制なので、似ていますね。
就学前教育
スウェーデンでは、日本と同じように、就学前教育は義務教育ではありません。ですが、小学校に入る前の就学前教育として保育園や幼稚園に通う子どもが多いです。
就学前教育は下記の2段階に分かれています。
フォルスコーラ | フォルスコーレクラス | |
---|---|---|
形態 | 保育園・幼稚園 | 就学前準備学級 |
対象年齢 | 1~6歳 | 6~7歳 |
保育料/月 | 5,000円~15,000円
※世帯収入により異なる。第4子以上は無料。 | 5,000円~15,000円
※世帯収入により異なる。第4子以上は無料。 |
※保育料は1SEK(スウェーデン・クローナ)=11円で計算。
保育園と幼稚園の機能が一体化されたフォルスコーラは、公立と私立があります。公立は3歳から入園でき、私立は1歳から入園できます。
スウェーデンは育児休業制度が充実しているため、0歳児は基本的に自宅で世話をします。
フォルスコーラでは、1クラス20人以下で3人以上の先生がつき、政府が決めた指導要領によりカリキュラムが組まれています。
スウェーデンでは、国の半分とも言われる広大な森林と湖という豊かな自然を活かした遊びを取り入れています。
フォルスコーラを卒業したら、フォルスコーレクラスに進みます。
フォルスコーレクラスは、就学前の準備学級という位置づけで、日本の幼稚園年長と同じ6歳~7歳(小学校入学前)の子どもが通います。
2018年からフォルスコーレクラスで学ぶことが必修となりました。
ただ、両親の希望と子どもが就学できる条件が満たされれば、6歳からでも小学校に入学することが可能です。
この場合は、フォルスコーレクラスで学ばず、小学校にそのまま入学します。
特徴1.保育料に上限がある
スウェーデンの保育料は、子どもの人数と世帯収入により異なるのですが、日本と違って上限があります。
マックスタクサという制度により、次のように決められているためです。
- 第1子 世帯収入3%・・・(上限 1,382kr)
- 第2子 世帯収入2%・・・(上限 922kr)
- 第3子 世帯収入1%・・・(上限 461kr)
- 第4子 無料
※1SEK(スウェーデン・クローナ)=11円で計算。
ですから、どんなに世帯収入が多くても、最大で約15,000円(1,382kr)以上は保育料がかからないのです。
また、3歳児~5歳児は週15時間は無料で、それ以外の時間は有料になります。1歳児~2歳児は全ての時間が有料です。
保育料は有料とはいえ、児童手当が1子につき約12,000円(1,100kr)支給されるので、保育料の負担は少ないと言えるでしょう。
義務教育期間
スウェーデンの義務教育期間は、小中一貫校にあたるグルンドスコーラン(Grundskolan)に通う9年間です。
下記のスウェーデンの学校系統図をご覧ください。
(参考:文部科学省 学校系統図 スウェーデン)
6年間の初等教育と、中等教育の最初の3年間である基礎学校の部分が、義務教育期間となります。
スウェーデンの小学校と中学校
スウェーデンの小中一貫校(基礎学校)であるグルンドスコーランには、7歳~15歳まで通います。具体的には下記のように分かれています。
低学年:基礎学校1~3年生(7歳~9歳)
中学年:基礎学校4~6年生(10歳~12歳)
高学年:基礎学校7~9年生(10歳~15歳)
グルンドスコーランは公立学校が大半で、日本のように学区制ではありません。
入学試験もなく、自宅から通える範囲で、希望する学校に入学の願書を提出します。
授業はスウェーデン語で行われ、国語、数学、理科、社会、英語、第2外国語(仏・独・西語は選択)、音楽、家庭科、体育などの科目を学びます。
学校ごとに独自のカリキュラムが組まれているため、国が定める必修科目以外は選択科目となります。
義務教育である基礎学校を卒業すると、ほとんどの生徒が高校に進学します。
また、スウェーデンの基礎学校での学習は、日本に比べるとかなりゆっくり進みます。
休日も日本に比べるとかなり多く設けられています。
特徴2.人間を平等に扱うプランの義務化
スウェーデンの各基礎学校には、生徒同士を平等に扱うプランとして、リーカべハンドリングス(Likabehandlingsplan)というプラン設置が義務付けられています。
これは、いじめだけでなく、性別、年齢、人種、障害、LGBTなどで人を差別しないように、計画的に学んでいくプランです。
移民や難民を積極的に受け入れてきたスウェーデンという国では、義務教育の段階で人との違いを理解することや、相手を尊重するという文化を根付かせる必要があります。
そのため、平等プランなどを授業のカリキュラムに組み込み、人権、平等性などを学んでいるのですね。
特徴3.高校入試がない
日本のような高校入試はありません。
グルンドスコーランの成績を希望する高校に送り、入学の可否が決まります。
高校入試はありませんが、地域によって高校の学力に差があります。生徒が、自分自身の興味のあるコースを選択し、倍率が高い場合は、基礎学校の成績によって決まります。
そのため、人気の高校に入学するためには、グルンドスコーランで良い成績を納めなくてはなりません。特に、国語、数学、英語などの必修科目は力を入れて勉強する必要があります。
ただし、音楽、美術、演劇を専門とした美学コースを希望する場合は、入学のための実技テストが必要になります。
特徴4.飛び級や留年がある
スウェーデンでは日本と違い、義務教育期間でも飛び級や留年があります。
生徒の能力や個性を尊重し、伸び伸び育てる教育方針のスウェーデンでは、能力が高い子どもは本人、保護者、担任と話し合って適正と判断された場合は飛び級となります。
反対に、授業についていけない子どもは、無理やり進級させるのではなく、留年させてもう一度じっくり理解するまで学ばせます。
ただ、実際は留年する子どもはほとんどいません。
スウェーデンの高校
スウェーデンの高校であるジムナシエスコーラン(Gymnasieskolan)には、3年間通います。
高校では、国語、数学、英語などの必修科目の他、興味のある分野や将来の就職につながる、経済、電気、IT、建築、自然科学、音楽、美術などの科目を学ぶことができます。
スウェーデンでは、ITと教育を融合していて、多くの授業でパソコンやタブレットを授業で使用します。
時間割は大学の授業のように、自由に決めることができるため、登校時間も生徒によってマチマチです。
決まった制服がない場合が多く、服装や髪形も基本的には自由です。
授業が終わったら、放課後は友達同士で過ごすのが一般的です。塾に通う生徒は、ほとんどいません。
特徴5.大学入試がない
スウェーデンには、大学入試もありません。
ジムナシエスコーランで学んだ3年間の成績、カリキュラムの全課程修了後に受けるテスト点数、先生の推薦書で、希望する大学に進学できるかどうかが決まります。
ですから、日本のように塾や予備校に通って特別な受験勉強をする人はいません。
日本は高校から大学進学というのは一般的なルートですが、スウェーデンでは大学進学が全てではないという考えが浸透しています。
特徴6.高校卒業後に期間を空けて進学するケースも
スウェーデンには徴兵制度があるため、徴兵を終えてから進学する生徒もいます。
また、医師や弁護士などの高度な資格の取得を目指す生徒を除いて、高校卒業後にすぐに進学せずに、旅をしたり仕事をしたりしながら、翌年以降に大学に進学するというケースもあります。
ちなみに、社会に出て4年以上勤務して税金を納めると無条件で大学に入学できます。
高校卒業後の進学先
ジムナシエスコーランを卒業した後の進学先は、次の3つです。
大学
ホグスコーラン
職業訓練学校
高校卒業後に上記の3つのいずれかに進学しない場合は、そのまま就職します。
それでは順番に見ていきましょう。
大学進学率は約67%
2018年度のユネスコ(UNESCO)の統計によりますと、スウェーデンの大学進学率は約67%となっています。
ここでいう大学は、日本での四年制大学、大学院、短期大学など全ての高等教育機関が含まれます。
英国の教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)が毎年発表する2020年度の世界大学ランキングの100位以内には、41位にカロリンスカ研究所、96位にルンド大学がランクインしています。
カロリンスカ研究所は、ストックホルムにある医科大学で、医学系の単科教育大学としては世界最大と言われています。
ちなみに、日本でも100位以内は東京大学の36位、京都大学の65位と2校のみです。
スウェーデンには、公立の大学が14校、私立の大学が3校の全部で17校しかありません。
一方で、日本は公立の大学が169校と私立の大学が588校と圧倒的に多いです。
このような事実からも、少ない大学数で100位以内に2校もランクインするのは、スウェーデンの教育の質の高さを物語っていると言ってよいでしょう。
高等教育機関ホグスコーラン
大学に準ずる高等教育機関とされるのが、ホグスコーラン(Högskola)です。
ホグスコーランは、大学の学部(カレッジ)という位置づけで、博士課程がないこと以外は、大学とあまり大きくは変わりません。
ホグスコーランでは、希望する職種に就くための専門的な知識を学び、就職活動が有利になります。
スウェーデン国内に約30校あります。
職業訓練学校
3つ目が職業訓練学校(Yrkehögskolan)です。
職業訓練学校では、医療、会計、建築、理容などホグスコーランよりさらに就職に向けた実践的なことを学びます。
授業では実技が多く、日本でいうところの専門学校や職業訓練コースに該当します。
高校卒業後に就職を選ぶよりも、高度な技術や知識を身に着けられることから、職業の選択肢は増えます。
スウェーデンの年間スケジュール
日本と違い、スウェーデンでは2学期制をとっています。
一般的には、下記のスケジュールとなります。
1学期:8月中旬~12月下旬
2学期:1月上旬~6月上旬
スウェーデンの学校年度は、8月中旬から始まり、翌年の6月の上旬に終わります。
具体的には、8月中旬に新学期を迎え、12月のクリスマス休暇前までが1学期、長期休暇を挟んで1月から6月上旬までが2学期とされています。
続いて、スウェーデンの長期休暇を見てみましょう。
秋休み:10月下旬(約1週間)
冬休み:12月下旬~1月上旬(約3週間)
スポーツ休暇:2月上旬~2月中旬(約1週間)
春休み:4月中旬(約1週間)
夏休み:6月上旬~8月中旬(約10週間)
長期休暇は、1週間ほどの短いものを含めると年に5回あります。
新学期が始まってから、10月下旬に1週間の秋休み、クリスマスから2学期が始まるまでの3週間の冬休み、2月の1週間のスポーツ休暇、4月の中旬にある1週間のイースター休みです。
スポーツ休暇は、文字通りスポーツを楽しむための休暇です。冬のスポーツである、スケート、クロスカントリー、スキー、スノーボードを中心に行います。
スウェーデンの学費
スウェーデンでは、スウェーデン国籍を持っていれば、基礎学校(小中一貫校)、高等学校、大学、大学院までの入学金、授業料がすべて無料です。
驚きなのは、公立学校だけではなく、私立学校も大学院まで学費が無料である点です!
義務教育期間である基礎学校では、一般的に教科書や文房具なども学校から支給されます。
特徴7.児童手当が16歳まで毎月支給される
また、親の所得制限なしに国から児童手当が16歳まで、毎月約11,000円(第3子は約13,000円、第4子は約19,000円、第5子以降は約21,000円)支給されるのです。さすがは福祉大国。
さらに、大学に進学すると、国から毎月お小遣いが数万円ほど支給され、博士課程ではお給料まで発生します。奨学金制度も充実しているので、日本よりも大学に通いやすいと言えるでしょう。
近年、スウェーデンに留学する学生が増えているのは、こういった手厚い保障があるからなのですね。
ただ、先にお伝えしましたように、基礎学校にあがるまでの就学前教育は有料です。
スウェーデン教育その他の特徴
スウェーデンの教育には、日本と比べて他にも特徴があります。
それが、1歳から学ぶインクルーシブ教育です。
スウェーデンは、世界的にも福祉の国として知られています。人種の違いや障がいの有無にかかわらず、すべての人間は1歳から生涯にわたって平等に学ぶと言う考え方が基盤にあります。
そのような考え方から、人生で初めての教育である就学前教育(インクルーシブ教育)に力を入れていて、人間は皆平等であるということを子供の頃から学んでいます。
日本では、就学前教育の場として幼稚園、保育園、こども園などがありますが、スウェーデンではフォルスコーラと呼ばれる学校で統一されています。
フォルスコーラには、早くて1歳から通うことができ、1歳児の約50%が通い、2歳になると実に85%ほどが通います。人種の違う子供や障がいのある子供も当然ながら同じクラスで学びます。
OECD加盟国で3年毎に行われる国際的な学習到達度テストPISAなどの学力ランキングなどを参照すると、スウェーデンの教育水準は世界でも高い位置に属しています。
さらに、国民の幸福度は常に高い水準にあります。
これは、世界幸福度調査(World Happiness Report)でも明らかで、民主主義を基に徹底して行われているインクルーシブ教育が背景にあるからだと世界から注目されています。
スウェーデンのその他の学校生活
給食
スウェーデンの学校給食は無料で食べることができます。メニューは学年によって異なります。
教室ではなくランチルームで低学年から時間差で順番に食べます。
このため、早ければ10時半ごろから昼食になる場合もあり、問題視されているのも事実です。
放課後の過ごし方
日本の学童保育のような施設がスウェーデンにも存在し、放課後は生徒のほとんどがその施設(フリーティーズと呼ばれる)で過ごします。
スウェーデンでは、学校の始業時間がクラスによって違うこともあり、授業が始まる前もフリーティングで過ごす生徒がいます。
また、スウェーデンは自然が豊かで森林などが学校に隣接していることが多く、森の中で遊ぶ子どもも多いです。
習い事では、サッカー、ホッケー、水泳、ダンス、スケートなどスポーツ系のものが主で、学習塾や英会話などはほとんどありません。
まとめ
ここまで、スウェーデンの教育制度と特徴について紹介してきました。
日本と比べると、スウェーデンでは様々な違いがありましたね。最後に簡単にまとめてみました。
- 保育料に上限がある
- 小中一貫校のみ
- 差別やいじめをなくす平等プランの義務化
- 義務教育期間でも飛び級や留年あり
- 高校入試・大学入試なし
- 小学校~大学まで公立私立ともに学費無料
- 児童手当が16歳まで毎月支給される
- 1歳から学ぶインクルーシブ教育の浸透
義務教育は小中一貫校のみであったり、飛び級や留年もあります。いじめや差別をなくすための平等計画というプランも義務化されています。
また、高校入試や大学入試もありません。学費も小学校~大学まで、公立私立と問わずに無料なのも素晴らしいですね。
さらに、児童手当は16歳まで毎月支給され、大学ではお小遣いやお給料まで発生するというのですから、世界トップクラスの社会福祉大国にふさわしいといえるでしょう。
一時期は移民の受け入れや、地域における教育格差で、学力が低下しましたが、今はまた盛り返して上位に位置しています。
留学生などにも寛容で、ハイレベルな教育と豊富な保障で今後も人気の国であることは間違いないでしょう。
以上がスウェーデンの教育制度と特徴でした。
もし、子どもを連れてスウェーデンに住むことになったり、子どもが留学したいといってきた時に、参考にしていただけたら嬉しいです。