スイスの教育といえば、王族や貴族、また世界中のセレブに人気の、世界で最も学費が高いと言われる寄宿学校が有名です。
また、スイスの街中で耳を立てていると、フランス語、ドイツ語、イタリア語など多彩な言語が飛び交います。
それは、ヨーロッパをはじめ、様々な国の人々が生活し、多彩な文化が存在しているため。
そんな魅惑の国スイスでは、どのような教育がなされているか、興味のあるお父さん、お母さんも多いと思います。
そこで、今回はスイスの教育制度がどのようなものか、資料や友人知人への聞き込みなど様々な情報を集め、日本との違いをまとめてみました。
まずは、スイスの教育制度の概要を見ていきましょう。
スイスの教育制度と特徴
項目 | 内容 |
---|---|
学校制度 | 義務教育10年制、11年制または12年制(州により異なる) |
義務教育 | 4,5,6~15歳(ジュネーブ州のみ18歳)
※開始年齢は州により異なる。 |
学校年度 | 8月~翌年7月 |
学期制 | 2学期制 |
学費 | 公立:授業料,教材費は無料
私立:有料(費用は学校により異なる) |
(参考:外務省 諸外国・地域の学校情報 スイス )
スイスの義務教育
スイスの義務教育は、州により開始年齢が4歳、5歳、6歳と3種類あります。
【スイスの義務教育期間】
- 幼稚園 :4~5歳(州により異なる)
- 小学校 :6~11歳(州により異なる)
- 中学校 :12~14歳(州により異なる)
- 高等学校:15~18歳(ジュネーブ州のみ)
26の各州で制度を管轄しているので、義務教育も10年、11年、12年と州によって異なります。
スイスでは、州によっては4歳から義務教育がスタートします。
95%の子どもが幼稚園に通う
スイスでは、幼稚園が義務教育となるため、実に95%以上の子どもが幼稚園に通っています。
幼稚園は公立と私立があります。公立の幼稚園は学費が無料。
一方で、私立は有料で高額(高いところは保育料だけで月50万円近く)なため、公立の幼稚園を選ぶ家庭が多いようです。
小学校の成績が大学進学に影響
スイスでは、小学校の成績が将来の大学進学に大きな影響を与えます。
なぜなら、小学校での成績が良い生徒だけが、大学進学に向けた高等学校(Gymnasium)の中学部に進学できるからです。
そのようなハイレベルな大学に進学するため、小学校の成績が大学進学に影響してくるのは、日本と大きく異なる点と言えるでしょう。
小学校の4年間~6年間という短い期間で、大学進学を目的とする高等学校の中等部か、その他の中学校か、将来を見越して進路を選択しなければなりません。
多くが1クラス20人程度と、日本に比べると少人数で授業を受けています。
中学校は3種類ある
中学校は、次の3つの種類があります。
【スイスの中学校】
- 高等学校の中学部
- 普通中学校
- 実務中学校
小学校で成績の良かったこどもは、大学進学を目指す高等学校(ギムナジウム)の中学部に進学します。
この中学では、学業を中心としたハイレベルな教育を受けることができます。
小学校時代に平均的な成績だった子どもは、普通の中学校に進学します。この中学校で勉強を頑張れば、高校へ進学する時にギムナジウムに入ることも可能です。
小学校時代に勉強が苦手だった子どもは、就職に向けて実務を学ぶ実務中学校に進みます。
多くの州で、義務教育最後の年は15歳ですが、実は1つだけ18歳までの州があります。
ジュネーブ州のみ義務教育を18歳まで引き上げ!
2018年からジュネーブ州のみ、義務教育期間が15歳から18歳に引き上げられました。
理由は、ジュネーブ州だけが18歳未満の高等学校、高等専門学校、職業訓練校の退学率が、他の州の退学率に比べて2倍ほど多いからです。
中途退学した子どもは失業率が高く、収入も少ない傾向にあり、将来生活保護に頼る割合がかなり増えるというデータがスイス連邦統計局の調査で判明したそうです。
義務教育期間を引き上げることで、卒業の学位を与え、将来自立できるだけの収入を得る仕事に就けるように指導することが目的です。
義務教育後の進路
日本のように高校受験などはありません。
中学校を卒業する時に、中学校時代の成績、教師の推薦、試験の結果によって、次の3つに進路が決まります。
【中学校卒業後の3つの進路】
- 高等学校
- 専門職を学ぶ専門高等学校
- 職業訓練学校
大学進学を目指す高等学校に通う生徒は、全体の約30%。
日本の高校生の約60%が大学や短大に進学することを考えると、スイスでは圧倒的に少ないことが分かります。
つまり、スイスでは「選りすぐりのエリートしか大学に進学しない」ということでしょう。
生徒の進路は、成績、教師の推薦、試験の結果によって決定される。
そして、実に70%以上の生徒が職業訓練学校に進学します。ここでは、仕事をしながら学校に通います。
仕事先も入学する時に保護者と職業カウンセラーに相談しながら、自分で決めなければなりません。
週3~4日労働し、残りのに1~2日学校に通います。
労働している時間は、当然お給料をもらうことができ、月額で10万円以上にもなります。
専門高等学校や職業訓練学校では、将来の仕事を見据えた準備が始まり、3~4年間の実地研修がある学校もあります。
これらの学校は、一般企業も一体となり生徒達に教育を行っています。
高校生の約35%が大学に進学
高校を卒業する生徒は、約35%が大学へと進学します。
スイスには州立大学が10校、連邦大学が2校ありますが、ほとんどのレベルは世界ランク上位です。
中でも、ノーベル賞受賞者を多く輩出しているチューリッヒ工科大学は有名で、毎年世界大学ランキングのトップ10に入るほど。
オックスフォード大学やケンブリッジ大学のあるイギリスは人口約6,500万人。
カリフォルニア工科大学やスタンフォード大学のあるアメリカの人口は約3億2,700人。
そこに、人口たった約850万人ほどの小国のスイスがランクインしているのは、スイスの教育水準がいかに高いかを示しているかが分かります。
高校の最終学年に大学入学資格(マトゥーラ)を取得します。
そして、その成績をもとに希望の大学・学部に進学します。日本のような大学入学試験はありません。
ただし、医学部だけは試験があります。
例えば、フランス語圏の生徒がドイツ語圏の大学の医学部に入学を希望する場合は、ドイツ語の試験に合格する必要があります。
大学へと進学しない残りの約65%の学生は、就職します。
スイスの年間スケジュール
日本と違い、スイスは2学期制をとっています。
これは公立も私立も一緒。
一般的には、下記のスケジュールとなります。
【スイスの学期】
- 1学期 8月~翌年1月
- 2学期 2月~7月
日本は4月が新学期ですが、スイスは8月になります。
具体的には、8月中旬に新学期が始まり、翌年1月までが1学期、2月から7月までが2学期です。
続いて、スイスの長期休暇を見てみましょう。
【スイスの長期休暇】
- 秋休み:9月中旬~10月中旬の約1か月
- クリスマス休暇:12月下旬~翌年1月上旬の約2週間
- 春休み:4月上旬~4月下旬の約2週間
- 夏休み:7月上旬~8月中旬の約5週間
日本と比べると、1回ごとの長期休暇は短めですが、回数は多くなっていますね。
自然が豊かなスイスでは、長期休暇は家族で海や山などに行ってのんびり過ごすというのが一般的です。
スイスの学費
スイスの公立学校の学費は、授業料や教材費が無料です。
一般的な家庭では、学費が無料の公立学校に通います。
一方で、王族やセレブなど世界中の富豪子息が集まると言われているスイスでは、幼稚園から大学まで、私立学校の質や授業料は世界トップクラスです。
中でも、世界中のエリートが集まるボーディングスクールは、世界で最も学費が高いと有名。
ボーディングスクールは、主に中学3年生から高校3年生までの4年間を教える全寮制の私立学校です。
その学費は学校により異なりますが、年間でおおよそ850万~1,600万円というので、高額過ぎて開いた口が塞がりません。
日本の私立大学の医学部で、入学から卒業までの6年間のトータルの学費が安い大学で1,800万円です。
つまり、スイスのボーディングスクールに1、2年通っただけで、日本の私立大医学部を卒業できてしまいます。
それだけ、スイスのボーディングスクールは学費が半端ではないくらい高いということです。
スイス教育の特徴
スイスの教育は、日本と比べるといくつか異なる特徴があります。
- 世界屈指の名門ボーディングスクールが集結
- 国語が4つもある
それでは、ひとつずつ見ていきましょう。
世界屈指の名門ボーディングスクールが集結
スイスには、世界屈指の名門ボーディングスクールが集まっています。
世界で有名なボーディングスクールというのはスイスが圧倒的に多く、そして人気も高いのです。
例えば、世界で一番学費が高いとされるル・ロゼ学院。
ル・ロゼ学院の年間の学費は約1,600万円という破格。
ヨーロッパやアラブの王室や貴族、世界的に有名な大富豪の子どもなどが一堂に会する名門中の名門です。
世界トップクラスの教育の質の高さを誇り、英才教育を叩き込まれます。
また、寄宿生活であり、宿舎には住み込みの先生がいて、エリートにふさわしい規律を教え込みます。
さらに、馬術場、射撃場、アーチェリー場、そしてフットボール場やラグビー場などあらゆるスポーツ施設が完備されています。
入学するためには、高額な学費だけでなく、学生の学力と幅広い教養、高い語学力、家庭環境など様々な条件が存在し、かなりの狭き門となっています。
国語が4つもある!
スイスの公用語はドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語と地域によって異なるため、国語授業が4種類あります。
そのため、州を越えて引っ越してきた子どもは苦労を強いられます。
また、グローバル化の進むスイスでは、言語教育に力を入れており、義務教育期間に英語か第二公用語を学びます。
しかし、世界共通語である英語を最優先にするべきであるという意見と、国の連帯のためにも母国語を最優先にするべきであるという意見で真っ二つに分かれているようです。
スイスの学校生活
給食
スイスの学校には、給食がありません。
子ども達はランチタイムになると家に帰り、母親と昼食をとります。
この習慣は、「夫は外で働き、昼時になると自宅に戻り、家を守る妻が作った昼食をとる」という昔からの文化が影響しています。
現在では働く女性が増え、このような習慣を負担に感じている母親が増加傾向にあります。
母親数人でグループを作り、それぞれの仕事が休みの日にグループの子ども達に昼食を用意するという当番制をとっていたりと、工夫しながら乗り切っているようです。
放課後の過ごし方
スイスでは、クラブ活動等の課外活動が無く、学習塾も盛んではありません。
そのため、放課後の有意義な使い方として習い事をしている子どもが多く、サーカスやミュージカルなど、日本では見られないような珍しい習い事も存在します。
ちなみにサーカスでよく見られるジャグリングは、日本でのお手玉のように、スイスの子ども達に昔から親しまれている遊具なのです。
また、冬になると運動する機会が減る為、サッカーや体操などスポーツ系の習い事は定番です。
これらのスポーツは授業料も安い為、多くの子ども達が習っています。
まとめ
ここまで、スイスの教育制度について紹介してきました。
日本と比べると、スイスでは様々な違いがありましたね。最後に簡単にまとめてみましょう。
- 義務教育期間が州ごとに異なる
- 小学校の成績が大学進学に影響する
- 大学進学率は約35%と低い
- 世界屈指の名門ボーディングスクールが集結する
州ごとに義務教育期間が異なり、4歳から始まり、18歳までのところもありましたね。
また、小学校時代の成績が将来の大学進学に影響したり、大学に進学するのはエリートだけで、他の生徒は実務を経験して働くながら学校に通うというユニークな制度でした。
そして、何といっても世界一と言われる名門ボーディングスクールが集中しているのがスイスの大きな特徴です。
学費は破格ですが、教育の質や学生時代に培われる豊富な人脈を考えれば、惜しまずに学費を払いたくなる気持ちも分かります。
以上がスイスの教育制度と特徴でした。
もし、子どもを連れてスイスに住むことになったり、子どもが留学したいといってきた時に、参考にしていただけたら嬉しいです。